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ガサガサっ!
揺れた草むらは、私の位置から男の人を挟んだ向こう側。
体が強張り、私は身動きを止めて出来るだけ息を潜めた。
普段此処に現れる位の魔物なら、私1人でも十二分に戦える。
そんな私の手に汗を握らせている要因は、先程のドラゴンと言う存在とそのドラゴンを片手間で倒してしまう男の人が大きい。
そんな緊張の中、草むらから出て来たのは黒い一匹の猫。
ホッとして体から空気が抜ける様に力が抜け、長く息をついた。
何処にでもいる様な可愛らしい黒猫は、ドラゴンの死体、焼け焦げた野原、倒れた男の人を順に見ていく。
私も何時までも草むらの中にいる理由も無いので、立ち上がろうとして
「にゃー」
黒猫の鳴き声と共にあり得ない光景を目の当たりにした。
焼け焦げた大地の上、黒一面の大地に幻想的とも言える光が集まりだし、やがてそこは光によって目を向けられなくなるほど輝きだした。
そして集まった光が弾けたかと思うと、鈍色に太陽を反射させるとても見覚えのある鎧が現れる。
ミ「うそ……」
胸元にある盾の前で交差した二つの剣。
それは正に王国を表す印だった。
ミ「……」
「……」
黒猫に視線を戻すと、お互いの視線があう。
心なしか目を見開いていて、口を大きく開いたその顔は人間が呆然としている様だった。
「にゃぁ」
その鳴き声は「見た?」と聞かれた様な気がして、私は思わず頷いてしまった。
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