第1章

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その尻尾をしっかりとたぐり寄せられるか、 恐る恐る手を伸ばしてみるか、 それはその幸運に遭遇してみないと わからないことなのかもしれない。    尾崎良夫はうだつの上がらない 平凡な48歳のサラリーマンである。 一流とは言い難いが、 そこそこの大学を卒業し、 大企業とは言い難いが、 中堅規模の総合商社に入社し、 ごく普通の恋愛を経て結婚した。 家族は妻と二人の子どもというごく平均的な家庭である。 十年ほど前にやっとのことで都下に 新築分譲マンションを購入したものの、 当然のことだがその住宅ローンを抱え 月々の返済に四苦八苦している。 しかも、 まだまだこれから教育費がかかる 中学生の息子と小学生の娘もいる。   購入した当時は4千万円したマンションも、 バブルがはじけて以来、 その資産価値は下がる一方であり、 今となっては売却でもしようものなら、 逆に借金が増えるだけで、 どうにも身動きできない状態である。
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