第1章

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月々の小遣いは3万円。 幸いにも良夫は酒が飲めないし、 タバコも吸わないゆえ、 この小遣いで何とか毎月をしのいでいる。 とりたてて熱中している趣味もなく、 ギャンブルをやるわけでもなく、 いたって安上がりな亭主なのである。 見た目にも多分、何度か会ったくらいでは ほとんど印象にすら残らないのではないかと思える、 まるで人混みの中に同化しているかのような、 そんなごく平均的かつ平凡な中年男なのである。 今となっては、 妻の和子もそんな良夫には大きな期待を抱いているはずもなく、 とりあえずはリストラもされずにサラリーマンを続け、 毎月の生活費を稼いできてくれる「一家の主」として、 まさしく空気のような存在と考え、 「夫婦生活」というよりは むしろ「共同生活」しているようなもので、 今さら離婚をしても面倒だし、 そこそこ生活できるのだからと割り切っているのである。
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