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春の霞につつまれた夜の街。ぼんやりとした闇の中、ひとつの足跡が響く。
やがてそれは人影となって姿を現した。背格好からみて男であるらしいその人物は、苦しそうに腹部を押さえながら、いまにも倒れそうな足取りで歩いている。
「・・・はぁ・・・・・・はっ・・・・・・われながら情け・・・・・・ない。
・・・・・・なんとしても・・・・・・奴等だけは・・・・・・」
息も絶え絶えの様子でつぶやきながら、男はふたたび夜の闇へと紛れていった。
翌朝。
『起きろ少年!さぁ朝だ、いつまでも寝てる場合じゃないぞ!!』
決して広くはない薄明るい部屋に、キャラクター目覚ましの音声アラームがけたたましく響きわたる。
狭い部屋をいっそう狭く見せるかのように配置されたラックケースや本棚の中には、特撮ヒーローのフィギュアやテレビアニメ、アクション映画のDVDが整然と並べられている。
まもなくその部屋の中央にただひとつ敷かれた布団からうんうんとうなり声が聞こえる。この部屋の主らしい。
が、もぞもぞと動いたり丸くなるだけで一向に起き上がる気配がない。
しばらく丸まったままじっといしていたが、やがて鳴り止まないアラームに降参したらしく、布団を押しのけるようにどかすと寝ぼけ眼の少年が顔を出した。
年齢は15~16歳ほどだろうか。左右両脇の横髪だけがやたらと長いボサボサ髪である。
部屋に飾ってあるものを見る限り、いわゆるオタク的な趣味の持ち主であることは間違いなさそうだ。
下の階からは、食器をシンクに下げる音や慌しそうにタンスを開け閉めする音が聞こえる。
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