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「拓未ぃ、いい加減起きなさい!学校遅刻するよ~!!」
階下から呼びかける女性の声。彼の母親らしい。
「もう起きてるよ~」
拓未と呼ばれた少年が聞こえない返事をしつつ階段を降りると、すでに仕事の支度を済ませた母親が婦人用のリュックを片手に家を出るところであった。
「・・・・・・はよ~。」
「おはよ、ご飯そこね。悪いけど母さんもう出なきゃならないから洗いものよろしく~」
そう言って彼女は足早に玄関へ向かった。
「・・・・・・ん。いってらっしゃ~い」
母親が玄関を出るのを見送ったところで、拓未はテーブルについて朝食にありついた。
ここ樫葉市(かしのはし)は東京近郊に位置する中規模の都市で、都内に職を持つ人々が住まうベッドタウンである。
もとは山地と水田が広がる田舎であったが、再開発により駅前を中心としてビルや商業施設、住宅地が建ち並ぶ都会へと姿を変えて久しい。
拓未の家は、そんな住宅地の一角にあった。特別広くもないが手入れの行き届いた、比較的綺麗な一般住宅である。
ちょうど学校へ行く支度を終えた拓未が玄関から出てきた。まだ眠気が残っているらしく、口をめいっぱいに広げてあくびをしながら歩いてゆく。
すると目の前をひらひらと落ちてくるものがあった。 立ち止まってふと見上げると、近所の庭の桜が誇らしげに花を咲かせている。
「・・・・・・きのうまでほとんどつぼみだったのに」
彼はなんだか嬉しくなって、揚々とした足取りでふたたび歩き出した。
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