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降機したときと変わらないシートの配置だが、攻撃を受けた拍子に、簡易的な食器棚から溢れ、バラバラに割れてしまったカップやソーサーが床に散らばっている。
当然、クジ師範の姿は見えない。それでも、つい数時間前まで乗っていた運転席を無意識に確認してしまう。
「……ん?」
胸ポケットに妙な違和感がある。取り出してみると、手のひらサイズの軽い巾着袋。クジ師範から預かった、特別なお守りだ。それが光っている。
「これは……」
クジ師範のお守りを、運転席から見える液晶画面にかざすと、文字が浮かび上がってきた。……このお守りはおそらく、通信や現在地が特定できる機能の他に、そういう“言葉隠しの魔法”を解読するための機能も備わっているらしい。
『これを見ているリョウ殿へ』
液晶画面に表示された一文は、そうして始まった。
『拙者はこれより、上空で緊急脱出を試みる。連絡はこちらから致すので、それまでは待機を命じるでござる。ご両人の守護を怠るでない』
「クジ師範……」
わかったことは二つ。クジ師範は今でも無事ということと、この山にはやはり何か秘密が隠されているということ。
ボクはすぐさま、その文章をもう一度読み直して、全文を記憶して脳内に叩き込もうとした、その時――。
どかん、と。
爆撃音。これには聞き覚えがある。たぶんミクが小さい人形を操って、爆発させた音だ。
「リョウさま!」
「!」
「はやく来てくださいっ!」
外から、白雪の緊迫した声が聴こえてきた――。
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