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「相模三曹。」
「あ……はい、何でしょうか……」
「前線部隊で実戦に就いたのは、これが初めてなのか?」
中崎がそう問うと、相模は不意に掛けられた質問に一瞬目を見開いた。おそらく彼女なりに悟られぬようにしていたつもりだったのだろう。
「あっ……はい……その通りです。少し前まではずっと東北部方面隊の支援連隊に配属されていたので……」
「そうか……」
「…………」
「……さっきは強引に頭を掴んで悪かったな。」
「いえ……とんでもないです。私の方こそ、余計なお世話をお掛けして……申し訳ありません。」
「生き抜くことが全てだ。自分の命を最優先に考えろ。」
「はい。」
何処と無くぎこちない会話を続けながら、中崎は相模を観察していた。自分が話し掛けている時、彼女がそれに答えている時は、しっかりと目を合わせてくる。
しかし、ひと度会話が途切れると、彼女の視線は決まった方向へと注がれていた。
「……一段落ついたら、ちゃんと供養してやらないとな。」
たった今、自分達の手によってその命を失った中国軍兵士達を見据えながら言う。
「……遺体を見るのも初めてか?」
「……いえ、8月に沖縄で戦闘が勃発してから……後方施設でもう何度も目にして来ました。敵のも味方のも、両方……」
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