Counteroffensive-反撃の鯨波-

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━━ああ、もう……あいつのせいで…… 機体を傾け右翼側へ展開したSpear.4、水瀬夏美二等空尉は、胸中の憂鬱を振り払うように溜め息を吐いた。 宮崎県の新田原基地で、今日までにかけ、度々召集・とある訓練を受けていた水瀬達は、その訓練過程を今日修了させるため、元々大反撃に転じる尖兵を担う作戦に参加する予定は無かった。 しかし、制空部隊の思わぬ苦戦、更には既に作戦域に展開している戦闘機は加勢困難とのことで、統合作戦軍司令部より発せられた緊急出動命令に従い、彼女達は翼を休めさせていたF/A-35Bで援軍として沖縄へ急行することになり、今に至る。 そしてたった今、同部隊に所属する同僚、Spear.3━━土屋謙吾二等空尉との無意味な口喧嘩のおかげで、自身の上官から有難いお説教を頂くことが確定した訳だが、それに対して頭を抱えるのは後だ。 間もなく現れるであろう敵戦闘機部隊……空自の精鋭達を苦しめる程の性能と腕が備わっている新手に、操縦悍をグローブ越しに握る掌が汗ばんでいく。 自身の力量に自信と誇りがあろうとも、この油断ならぬ状況には常に緊張が付きまとう。 そんな中、突然の味方機によるミサイル発射コールと共に、複数の白い筋が前方へと伸びていった。 運良くまだ目視できない敵機を捕捉することに成功した複数のF/A-35が、先手必勝とばかりにウェポンベイ(機体内格納スペース)を開き、長距離AAM(空対空ミサイル)を放ったらしい。 接敵する前に、もしかしたら数機撃墜できるかも…… そんな考えが水瀬の脳裏を過ったが、事はそう上手く運ばなかった。
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