真夜中の校舎で歌う

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「冥さん、援護しますか?」 「遅えよバカ!」 ようやく動き出した我らがサポーター、世舟の声が遠くから聞こえる。振り返ると、黒光りする愛用のアサルトライフル『ホンキートンキークレイジー』を構える世舟の姿が見えた。 実弾系アプリの弾丸は一発一発ダウンロードしなければならない。だが、近くに他のダイバーがいると電波障害でダウンロードに思わぬ時間がかかったり、最悪の場合ジャムる(弾詰まりを起こす)恐れもある。 そのため緊急の時を除き、銃器アプリを扱う際はできるだけ仲間から少し離れた位置をキープする。これは銃使いの基礎中の基礎だ。 「Let's ROCK!!」 世舟の掛け声と同時に、『ホンキートンキークレイジー』が火を吹いた。 少し時代遅れの銃器アプリだが、ライフル系で最速1.8秒間に一発という速射性には目を見張るものがある。もちろん、絶妙のタイミングで画面をタップできる腕前がユーザーにあればの話だが。 イレギュラーと世舟とを結ぶ直線上から素早く体をずらし、俺は会津正宗を握り直す。その直後、世舟の放った三発の弾丸がイレギュラーの上半身に全てヒットした。 大きく上体を反らしたイレギュラーの腹部に、俺はとどめの一刺しを喰らわせる。 「もうとっくに戦争( ・・)は終わってんだよ。せめて安らかに眠ってくれ」 俺のその呟きが聞こえたかどうかは定かでないが、学帽を被ったその亡霊は、どことなく安堵した表情を最期に見せ、ゆっくりと虚空へと消えていった。 「戦闘終了。速やかに武装解除しろ」 俺はそう仲間に伝えると同時に、少し熱を帯びたスマートフォンのモニターを切る。右手から、ギラりと輝く会津正宗のデータが消失した。 □■ 【六道冥】81% 【恩田世舟】68% 【田中檸檬】78% □■ 先ほど受けた竹槍の一撃が効いたか、俺のバッテリー残量もかなり減ってしまっている。 ガスや電気といったエネルギー法則が通用しないリバースワールドにはスマートフォンを充電する手段がない。携帯用バッテリーも無意味だ。完全なる消耗戦。だからこそ、無駄は省かなければならない。 「やったぁ!冥くんカッコイイ~!あ、でも誤解しないでね!?惚れたわけじゃないからね!?」 よくわからないことを口走りながら喜ぶチビっ子の元へ歩み寄り、俺はほんの少しだけ、笑ってみせた。
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