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強引に俺の服の袖を引っ張りながら、檸檬が今にも泣き出しそうな顔で叫ぶ。
こうなったら仕方ない。俺は世舟に目配せしてうなずくと、「わかったよ」と一言、ぶっきらぼうに檸檬に向けて言い捨てた。
「やったあ!さっすが冥くん話がわかるっ!じゃあさっそく、この道を突き当たりまで進んでぇ、右に曲がったらあそこの自転車置き場に出るからぁ、そのあとは道なりに直進ね!」
「いや…、お前が案内してくれるんじゃなかったのか?母校なんだろ?」
「案内するとは言ったけど先導するとは言ってないもん!冥くんが先頭、つぎ私、セイくんは私のすぐ後ろにいてね!あ、お礼と言っちゃなんだけど手をつないでくれてもいいよ!」
やれやれ、なんちゅう面倒くさい女だ。大体いつも、このチビっ子のせいで俺らの計画は容赦なく崩されてしまう。
「ちなみに冥さん。今回のこの件、そもそも誰が『本部』に依頼してきたんすか?」
自転車置き場へ向け一列縦隊になって歩く途中、不意に世舟が聞いてきた。
檸檬が言った通りこちらの道には校庭の中ほどイレギュラーはおらず、フラフラと歩く学生の亡霊たちと時折すれ違う程度。おかげで常に神経を張り詰めさせておく必要はなかった。
「依頼してきたのは自殺した生徒の遺族らしい。ちなみに成功報酬は300万、最低保障額は100万円だ」
「うっわ、すごっ!私たちが任務に失敗しても『本部』には100万円入るってコト!?丸儲けじゃん!」
「全然すごないっすよレモンさん。俺ら命賭けてんすから。むしろ安過ぎるぐらいっす」
依頼人から提示された金額に対して対照的な二人の意見。だがそれより、普段は飄々としている世舟にも「命を賭けている」という感覚があったことに俺は改めて少し驚く。
いや、本来なら驚くべきことではない。檸檬にせよ世舟にせよ、彼らにも命懸けでダイブする理由があるのだ。自分の命を失うことさえ厭わない、達成すべき目的があるのだ。
中には純粋に金儲けのためだけにダイブしている奴らもいるだろうが、ほとんどのダイバーがそうではない。
お金では買えない、人それぞれの「大事なモノ」を手探りで探すために、リバースワールドというこの非現実的な世界で今日も戦い続けているのだ。
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