真夜中の校舎で歌う

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檸檬と世舟。 よりによって、俺にとって極めて大事な今回のミッションに連れていけるダイバーがこの二人しかいないとは。どうやら俺は、ずいぶんとまぁ神様から嫌われているらしい。 それもやむを得ないか。 人間に与えられた業を無視し、科学技術を以て土足で聖域に踏み込んだ俺たちを、神が祝福する筈などないのだから。 だがマッチングに文句をつけたところで始まらない。この都雲( つくも)エリアはそもそもダイバーの数自体が少ないのだ。顔馴染みとチームを組まされる機会だってそりゃ必然的に多くなるだろう。 だからってまたこの二人とかよ、というのが本音ではあるのだが。 「ともかくダイブするぞ。そこのチビっ子、また前回のような失態を犯しやがったら許さんからな」 「違うもん!だって、あの時はさ、いきなりさ、ダイブしたらさ、髪のながぁい女の幽霊がぎゃわー!って追いかけてきて私もうぎゃー!ってなっちゃって!」 「だからってその状態でリターンするか普通。お前、そんなんでよくダイバーになろうとか思ったな」 反転世界・リバースワールドに蠢く不可視生命体( イレギュラー)。いわゆるオバケだの妖怪だの霊魂だのといった普段は目にすることのない類のものだが、そいつらから目をつけられた状態でリターンする行為は『本部』から固く禁止されている。 なぜなら、こっちの世界にそいつらを“連れて帰ってしまう”からだ。 そうなるとチームの連帯責任。出現したイレギュラーの放置は厳罰。しかも、無事に始末できたところで当然ながら『本部』からの報酬は一切出ない。 「チビっ子。お前が連れて帰ったあの女の幽霊を追い返すのに俺がどれだけ酷い目にあったか知ってるか」 「知りたくニャいです。冥サマ」 「こんな時だけ可愛い子ぶるな。いいか、学校の反転世界には幽霊なんてうじゃうじゃいるだろうからな。いちいちビビってんじゃねえぞ」 「俺は幽霊とかマジ大丈夫っすよ。じゃあ、お先にダイブしますね」 「あ!二人ともちょっと待ってよ!私を置いてかないでぇっ!」 スマートフォンを顔の前にかざした俺と世舟に倣い、檸檬も慌てて自分のスマートフォンをタップする。なんだかもう、身勝手な小学生の遠足を引率しているような気分だ。
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