真夜中の校舎で歌う

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リバースワールドのこの得体の知れない浮遊感からくる気持ちの悪さは、いわゆる乗り物酔いによく似ている。 俺は電車などでもすぐに酔ってしまう体質で、リアルワールドでもこのアプリが使えればいいのにといつも思う。通信のシステムがリアルとリバースとでは根本的に異なるため、実際にはそんなことはできないのだが。 ようやく呼吸が整うまでに回復した俺は、左隣に並んで立つ檸檬と世舟の顔を覗き見る。 俺と比べれば若干低いが、世舟もそれなりに長身だ。その俺らに挟まれて立つチビっ子はもはや捕獲された宇宙人の様相を呈していた。 気持ち悪い腹いせついでに「やい宇宙人」とでも呼んでやろうかと思ったが、再び込み上げてきた吐き気に慌てて口をつぐむ。 くそ。俺がこんなに苦しい思いをしてるって時に、二人とも平気な顔で辺りの様子を窺ってやがる。酔わない体質ってのは羨ましいを通り越してもはや憎たらしい。 酔いさえしなければ、こんな無駄なアプリをインストールしておく必要もない。 しかも、である。 □■ 【六道冥】94% 【恩田世舟】77% 【田中檸檬】84% □■ アプリを使用した為、俺のバッテリーが98%から94%へダウンしていた。 こうやって、無駄にバッテリーを消耗することもないのだ。酔いさえしなければ。 だが、だからといっていつまでもフラフラとグロッキーになってる訳にはいかない。俺は、身を挺してでも他の二人を守るべきアタッカーなのだから。 チームのメンバーには必ず役割がある。 解錠や索敵といった非戦闘系のアプリケーションを主に使い、銃火器による遠距離射撃もできる「サポーター」。 味方の能力を一時的に増大させたり、集中力を高めたりといった支援行動を行なう「ディフェンダー」。 そして、こちらに敵意を示すイレギュラーを容赦なく殲滅する「アタッカー」。 チームには最低限、それら三種類に役割を与えられたダイバーが各一名ずつ必要となる。つまり、三人がチームの最小単位という訳だ。 あとは『本部』が、現場に近いエリアに住むダイバーの中から勝手にメンバーを選び、チームをマッチングしてくれる。 世舟はともかく、この都雲エリアにはもっと場慣れしたディフェンダーもいる筈なのだが…、なぜかいつもこのチビっ子と組まされてしまう辺りに『本部』の悪意を感じずにはいられない。
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