真夜中の校舎で歌う

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リミッターの効果で、一瞬にしてノイズが収まる。まだ少しザワザワしているが気になるほどではない。 「あー。レモンさん、助かったっす。さんきゅー。それでもまだ少しウルサイっすね…。リミッターよりエンジェルのほうがありがたかったっす」 「えー!?あの程度の呪詛でエンジェルなんて使ってたらパケ死するもん!やだもん!」 『ノイズリミッター』はその名の示すとおり、呪詛のボリュームを下げる効果を持つアプリケーション。対して『エンジェルパスドチルドレン』は一定時間、完全な“無音状態”を作り出すアプリケーションだ。 『エンジェルパスドチルドレン』の効果は確かに強力だが、無音なのでチームのメンバー同士で会話をすることもできなくなる。指示も出せない。おまけにかなりの量のバッテリーを消費する。データ使用料もバカにならない。檸檬の言った通り、そうおいそれと使う訳にはいかないアプリケーションだ。 だが、リバースワールドの通信はパケット方式ではないため、厳密には「パケ死」という表現は間違っている。まぁ、通りがいいので俺もたまに使ったりしているが。 「てぇかさー、セイくん、そんなに呪詛がイヤなら自分でインストールしとけばいいじゃん。エンジェル」 「無理っすよレモンさん。サポーター系アプリで容量いっぱいいっぱいっす」 「聴いてない音楽データを削除すれば空き容量作れるんじゃないのか?」 「聴いてない音楽なんてないっすよ冥さん。俺、ノーミュージック……」 「わかったわかった。で索敵の結果はどうなんだ」 「いっけね。忘れてたっす」 おいおい世舟、しっかりしてくれ。どのイレギュラーが敵意を持ってるかなんて、『ヘイムダル』を使ってるお前にしかわかんないんだからな。 「冥さん。11時の方向に敵二体、距離8.2メートル。すでに戦闘態勢っす」 「って、おい!手遅れじゃねぇか!どいつだ!?」 「学帽を被った男子学生、こちらに急速接近中。二人とも竹槍みたいなの持ってるっす。斥候隊ってとこっすかね」 スマートフォンの画面をみながらのんびりとした口調でそう告げる世舟。ったく、他人事だと思いやがって! 「きゃあ!冥くん!やばいよやばいよ!大丈夫!?倒せる!?私、逃げてもいい!?」 「えぇい、お前はお前でやかましいぞチビっ子!気が散るから静かにしてろ!」
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