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温かな夕食が終わり、あたしはベッドで寝転んでいる香坂先輩を静かに見つめる。
ラフなジャージ姿の先輩は普段より全身にまとう針みたいな空気が緩んでる。
「キスしてくれたら、それでいい」
「そんな、できない」
「知ってる、だからやらせたい」
「イジワル」
呟く言葉は雨に消されてしまう。
鋭い目で見つめられれば、体が一歩ずつベッドに歩み寄る。
先輩の寝ているベッドにあたしも腰掛けて、先輩の顔に手を置く。
逆らえない視線に顔を近づけるけど、あたしにはできない。
それを証明するように手も震えてる。
「はぁ。まあいずれさせるから、覚悟しとけよ」
「そ、そんなのしないっ。させたいなら他の彼女さんにさせればいいじゃないですか」
「そだな。でも織依、お前も彼女だ」
強引な眼差しがあたしを誘う。
その瞳に囚われてしまいそうで怖い。
「じゃあ、誰だったら手を出さないんですか?」
「……妹」
さっきとは違う暗い感じで香坂先輩は呟く。
あたしはたぶん悪いことを言ってしまったんだ、突っついちゃいけない先輩のレッドゾーンを。
「す、すみません」
「別に気にしてない、妹が今のオレを作ったから。だから妹には手を出せない」
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