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地面を見て歩いてると声が降ってきた。
顔を香坂先輩が校門の柱に寄りかかってて、眉間にややだがシワが寄っている。
「先輩、なんでいるんですか?」
「付き合ってんなら一緒に帰るだろ」
「そういうものなんですか?」
「お前なぁ」
先輩は呆れてた。
わからないんだから聞くのが当たり前なのに、まるであたしがおかしいみたい。
夕日は傾きあたしたちをオレンジに染める。
「あたしは言ったはずです“恋愛を教えてください”って」
「口説き文句じゃなかったんだ、それ」
無理矢理に手を取られ、すっぽり先輩の体に収まる。
自分以外の体があたしの近くにあることに堪らなく抵抗を感じる。
手の先にある他の手、それはあたしのとは違うゴツゴツとしたもので。
「放し……てっ、気持ち悪い」
途切れるようにしか言えない自分が情けない。
睨んだ目は潤いに満ちて目尻から涙が頬を伝う。
「なんで?まあいいけど、帰ろうぜ」
体が離れると冷気があたしを安心させる。
先を歩く先輩はわりと平然としてるみたいで、それがなぜかわからない。
『彼女その五』
これがあたしの固有名詞らしい。
つまり先輩は現在あたしの他に四人の彼女さんがいるってこと。
よくやるよ。
あたしには真似できない。
てかしたくない。
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