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「ええ。大学の先輩と結婚するとかで、その先輩の実家に入るとかで」  戸野塚の荒れる理由も見えない。杉山の結婚相手が社内の女子社員なら2人で取り合った末、戸野塚が負けたという推測も立つけれど、そうではなさそうだ。 「飲み放題プランをいいことにオーダーしまくって、“杉山うらやましい、頑張れ!”、とか上機嫌なんですけど、こう、虚勢を張ってるというか」 「無理してる感じ?」 「そうなんです。で、帰りが同じ方面の面子でタクシーに乗り合わせて戸野塚くんを送ってったんですけど。部屋は散らかってて、まともなのはベッドの上くらい。でもシーツの上でたぐまるスウェットとか男臭くて逆に萌えの境地で」 「ふうん……」  大竹は更に詳しく戸野塚の部屋をリポートした。鴨居に掛けられた白い肌着、洗濯ハサミからぶら下がる靴下、100均で購入したであろう鏡の前に無造作に置かれたシェーバー。そんな散らかし放題の部屋でも憧れの君の部屋ならベルサイユ宮殿に匹敵する素晴らしさなのだろう。ああ、出来ることなら。
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