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 ランチから帰ると私のデスクに分厚い封筒が鎮座していた。仕事にバレンタインも糞もない。私は一つ溜め息を落としてその書類を見つめる。置き逃げ。どこのどいつだ、私の留守中に不意打ちとはけしからん。しかもこんなに大量の書類だ、一言“お願いします”くらいの挨拶は出来ないのか。常識のない面子を拝んでやろうとその封筒を開けた。 「あれ?」  戸野塚に頼んだ書類。ということは……。 「と、戸野塚くん、来たの?」  戸野塚に預けた案件、それはすぐに理解したけれど、その書類がここに鎮座してるということは戸野塚が来たということだ。 「あ、真田主任。さっき戸野塚さんが来て置いてきました、それ。お願いしますって言付けもらってます」 「そう」 「今日はこのまま戻らないって言ってました」  一応言付けはしていったのかと無礼者ではなかったことに安堵しつつも、入れ違いで会えなかったことを残念に思った。  午前中の出張の合間に作成したであろう書類はキチンと印刷され束ねられ、昼休みは比較的空いているプリンターに吐き出させたものだろう。私が早くもらいたかった書類。律儀な彼に誇らしく思う。その書類を手にして彼の温もりを感じながら私は早速目を通した。  大竹たちとランチに行かなければと悔やんだ。いつもの通りに階上の社食でランチを取ってオフィスに戻っていれば戸野塚に会えた。でも悔やんだところでどうにもならないし、その前に戸野塚と会ってどうするつもりなのか。恋なんて面倒だ。顔を見れなかったら残念無念とボヤき、会えたら会えたで何も進展の無いことにため息をつくのだから。会えなくて良かったのだ。会えなくて良かった、良かった……。
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