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夕刻。部下たちは身支度を整えてオフィスを出て行く。定時を過ぎて、だだっ広いオフィスに人は疎ら。バレンタインと言うこともあり、残された私は余計に物悲しく感じた。今頃カップルはデートでもしているのだろう。
戸野塚も出張、直帰。ああ、ひょっとして恋人でも出来たか、なんて考えた。急ぎの書類を合間に仕上げて持ってきた辺りも怪しい。今夜のデートのために必死に仕上げた、と考えられなくもない。今頃、戸野塚の隣にいる女の子はどんな気持ちだろう。バッグにしたためたチョコをどのタイミングで渡すか考えてたり、今夜はどうするの?なんて考えてたり。もしも私がその立場なら、年上の女として毅然と振る舞うつもりだ。“明日も仕事だから早く帰るわよ”と私が窘めて、“駄目です、俺、主任が欲しいです”と戸野塚がせがんで、“しょうがないわね、もう”と私が戸野塚の額を指で小突いて、“時間がないから私のマンションに泊まって翌朝は一緒に出勤よ、バレても知らないから”“主任ならバレてもいいんです”“責任取れるの?”“僕は主任と結婚したいです。甘えさせてくれるぽっちゃりとした胸も頬のほくろに近いシミもセクシーで、垂れたお尻を手のひらでそっとすくいたい”……なあんて。言う訳ないだろ。
こんな馬鹿な妄想をするのは、戸野塚が書類を急いで仕上げてくるからだ。戸野塚が悪い。全く戸野塚は、と呟くと、はい、と返事をする声が聞こえた。
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