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「そうでしたか。プリントしている間、上の社食で食事したんですが主任、見当たらなかったものですから」 「社食で?」 「はい。プリンターも調子が良かったし、お昼でしたし。何より主任を探してたので」 「私を?」  ドキン。私は垂れた胸の中で妙な期待をしてしまう。戸野塚は私を探していたんだろうか。 「ええ。主任に会いたかったから」  いやがおうでもドキドキする。可愛い君に会いたかったなんて言われたら誰だって……。 「だって主任、無言で物を頼むものじゃないって教えてくれたのは主任ですから」 「あ……。そうよね。はは、ははは」  そうだった。戸野塚が新入社員の頃、私はそんなことを教えた。口を酸っぱくして説教した。自分が主任になって偉そうにしたかったんじゃなく、必死だった。部下が仮に仕事が出来なくても礼儀だけはと体に教え込みたかったから。 「はは……はあ」  落胆した。仕事の用で私を探してたのかって。天国から地獄の底に突き落とされた気分だ。 「あと。書類をお願いするのもありましたけど、今日はバレンタインでしたし。恒例のブラウニーをおごってもらおうかと」 「まさか出張から戻ってくるとは思わなかったから大竹さんとカフェに行っちゃったわよ」 「主任」  戸野塚はニヤリと笑った。 「何?」 「出張から戻っくるのを知ってたらカフェには行かなかったんですね」 「ま、まあそうね」 「じゃあ、戻るってメール入れれば良かったですね。主任とブラウニーを食べられたのに失敗しました」  戸野塚の台詞に心臓は更に音を鳴らす。戸野塚が私とランチを取りたかったってこと? 私とランチを? いや、それはおごってもらえるからだ、そう自分に言い聞かせる。そんな理屈で自分の気持ちを抑制しようと思うけど、暗闇のどん底に突き落とされた私のハートは燃料を満タンに積んで打ち上げられたロケットのごとく加速度を上げて急上昇する。
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