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「主任はチョコピザでしたか……。俺、ブラウニー食べ損ねてご機嫌斜めなんですけどね」
「注文しなかったの?」
「だって男ひとりで社食に入ってブラウニーを注文するって相当惨めじゃないですか。バレンタインですよ、女性からチョコをもらう日に自分で注文するなんて。主任におごってもらいたかったんです」
戸野塚は私を見下ろすように睨んで。社食のブラウニー、美味しいんですよね、美味しいんですよね、とブツブツいじけたように言葉を繰り返す。
「しょ、しょうがないわね。じゃあこれから食事にいく? 隣のカフェでいい?」
「はい。でも主任はお昼もそこでしたよね」
「いいのいいの、ちょうどお腹も空いたし。チョコピザ美味しかったし。出張のご褒美におごるから」
いじけていた戸野塚は、ありがとうございます!、とクシャっとした笑顔を見せた。
デスクの上を片付けてオフィスを出る。戸野塚にご褒美だと言っておきながら内心、自分のご褒美だと思った。社食ランチよりグレードが上ではないか、デートみたいではないかと心の中ではしゃいだ。
食事をして、チョコピザを注文する。美味しそうに頬張る戸野塚を見て、私は幸せな時間を過ごした。
そして更に。
帰り際、戸野塚は私に向き合うと手を差し出してきた。小指を立てて。
「主任、指切りですよ」
「はいはい。来年はちゃんと社食ランチね」
私は何食わぬ顔で小指を差し出した。指切りげんまん。さらりと繋ぐ指。子どもみたいな約束。その指の温かさに強さに、私は迂闊にも胸をときめかせてしまった。
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