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「どうしたの?」
「戸野塚さん、先週となりの課長と食事したらしくて」
「え? あ……そう」
「昇進狙ってるって噂、本当なんですかね」
「昇進? 戸野塚くんが?」
「最近、あちこちの上役とコンタクトを取ってるみたいで。ほら、そろそろ今年度の人事査定を出す時期ですよね」
「そうね。来月締切だった」
年度末、上司である私の下にも人事部から書類が来ていた。部下の人事考課。主任の私はABCの判定をするだけだが、一応昇進には関係するらしい。
「主任が羨ましいです」
「なんで?」
「二人で食事なんて……はあ」
大竹はそう呟くと肩を落として自席に着く。私も溜め息をついて鞄をデスクに置いた。
隣のアラフォー女史と食事……。彼女にまで手を伸ばしていたとは驚いた。ああ、そうか。ああ、そうなんだ。戸野塚は胡麻擂り目的で私に近付いたのか。何を期待していたのだろう。そもそも期待する方が可笑しい。見返りはいらないと言っていながら、戸野塚に何かを期待しているのだから、そんな自分に自分で呆れてしまった。
大竹はモニターを焦点の合わない瞳で見つめていた。そして視線に気付いたのか私をチラリと見て再びモニターに向く。私を羨んでも仕方ないだろうに。別の目当てで近付いて来ただけのこと、私は出世のための道具でしかない。イマドキの若い子は平気で上司を利用するのか。甘えさせてくたさいという顔をして、甘えて、ホロ酔い気分にさせて及第点をもらおうとするのか。そこに漬け込んでババアが戸野塚に擦り寄っても所詮ババア。海老……いや、海老どころか干からびたシラスで鯛は釣れるまい。
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