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 バレンタインデー、毎年私は戸野塚にランチをおごってきた。といっても洒落たレストランではなく階上にある社員食堂。日替わり定食にバレンタイン特別メニューのチョコブラウニーを追加するという味気ないランチ。直属上司の私から受け取るにあたり、あまり豪勢なものは気が引けるだろうという小さな気遣いからだ。それでも私は良かった。はにかみながら日替わり定食を食べる可愛い年下の男の子に私は癒されていたのだから。  そんなことを続けて4年、先週戸野塚から出張許可願の紙切れを受け取って愕然とした。出張の日付は2月14日、戸野塚は今年のバレンタインデーに出張を入れたのだ。私はガックリと肩を落とした。毎年私が独り占めしてるバレンタインランチはあっさりとお流れになったのだから。可愛い部下を愛でるチャンスを逃して軽くショックを受けてふと気付いたのだ。  何故、こんなにガックリとしてるのか。  何故、こんなにショックを受けてるのか。  もしかしたら私は戸野塚に対して、部下以上の気持ちをもってるんじゃないか。可愛い年下以上の想いを抱いてるのではないか。戸野塚を男として意識してんるじゃないか。  そう思い始めたら女の妄想は止まらない。時間があれば自席から戸野塚のいるデスクを見た。書類に視線を落とす彼の横顔をじっと見つめたり、席にいないときは脳内で戸野塚がはにかむ表情を思い浮かべたり、私はこの1週間戸野塚の事ばかりを考えていた。夜になると脳内で私は戸野塚を欲していて、妄想の中で戸野塚と裸で絡み合うシーンを思い描いていて、ヒドい時には真っ昼間のオフィスでスーツ姿の戸野塚を脳内で脱がすなんてこともあった。その瞬間に戸野塚と目が合う、赤面する自分。そこでようやく私は戸野塚を異性として異様なまでに意識してるのだと認識した。恋……きっと、恋だ。
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