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 翌日。バレンタイン当日。戸野塚のデスクは空席。出張。昨日引き出しにチョコを忍ばせた女の子たちはどうしているだろう。チョコに気持ちを託して、その返事を待ってるんだろうか。喜んでくれたか、OKしてくれるか、はたまた駄目か、と。そんな風にドキドキしたり、心をときめかせたりして戸野塚の返事を待つ。やっぱり駄目かも!という負の妄想で胸を痛めることすら出来ない私には恨めしいほど羨ましく感じた。  例えば目の前にいる大竹。短大卒、2年目。 「主任、ハンコお願いします」 「はい」 「ありがとうございます。主任、お昼はどうするんですか」 「ん? 上」  私は人差し指で天井を差した。大竹は、社員食堂ですね、と言った。 「大竹さんは?」 「隣のカフェ行きます。主任もご一緒にいかがですか?」 「うん……」  今日はバレンタイン特別メニューのチョコブラウニーが排出される日。一緒に食べる人もいないけど、戸野塚を想って食べるのも乙なものだ。小洒落たカフェでガヤガヤと過ごすよりは今の自分には合ってる気はする。 「部下とのコミュニケーションも必要ですよ、ね、真田主任」 「まあ、そうね。折角誘ってくれたんだからそうする」 「ありがとうございまぁす!」  流されて私は返事をした。書類を片手に彼女は自席に戻る。大竹は22歳、私より一回りも年下だ。ピッタリとした細身のスカート、丈の短いジャケットからは垂れてないお尻を覗かせる。インはピンクのブラウス、はだけた襟元からは滑らかなデコルテ、その上にティファニーのハートが光る。女の子を象徴するファッションだ。私は濃いめのグレーのパンツスーツに白のカットソー、地味に無難にまとめて何の主張もない出で立ち。隣の課長のアラフォー女史はビビッドカラーのスーツを平気で着てくるけど、私はそこまで自己主張する気にはなれなかった。古来の大和撫子のように控え目な女でも無いけれど、どこかこう、客観的に34という年齢を見てしまう。恋だ!と張り切る年齢でもなく結婚にがっつくのもあからさま過ぎる年齢で、かと言ってバリバリ仕事も虚しい年齢。全てに中途半端なのだ。
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