『真っ黒クッキング!?』 其の壱 「近接特化型エルフを作ろう!」

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─「この3つの拘束具はお前達を"完全に拘束する"ものだ。」 たしか奴隷商の男がそう誇らしげに言っていた。 男の言葉が真実だとすれば、「3つでなければ"完全には拘束できない"」と彼女は考えた。 彼女の考えが正しければ、この拘束具は「3つ揃って効果が発動するもの」なのか「1つずつ効果がちがうもの」ということになる。 前者の場合、この拘束具のどれかを何とかすれば逃げることは容易い。 馬車の揺れ方、木々の微かな匂いを感じることから、彼女は現在森の中、またはその近くを走っていると分かった。 いくら体力と魔力が封じられているとしても、ここが森である限り「森の住人」と呼ばれてるエルフ族の自分ならば逃げられる。 それに、もし後者だった場合でも、どれか一つ拘束具を何とかすれば逃げることが出来るかもしれない。 まだ自分にはチャンスがあるのだ、と彼女はいつもの様に自分に言い聞かせ続け、少しでも隙が出来れば行動出来るよう準備し、その時が来るまでの間、自分が得た情報の整理を行った。 現在彼女には 『魔力を使用した際、激痛を伴う効果』を持つ手錠、『身体能力の低下及び、疲労の蓄積増加』の効果がある足枷、効果が未確定の首輪が嵌められている。 恐らくだが、首輪は「絶対服従」等の『精神の拘束』の類であろうと考えているため、奴隷商の人間に見つかってしまえば、命令され、自分は逃げることが出来なくなってしまうかもしれない。 その可能性を考え、逃げ出す際はここにいる生きる屍共に気付かれることさえ極力避けなければならない。 その場合、馬車の出口前にいた方が逃げやすいのは明白であるため、彼女は周囲のことなど気にもせず、足枷の付いた足でふらふらと歩いて揺れる馬車の中、唯一の出口扉の前まで何とかたどり着く。 その際、何人も踏んで、押し倒し、足枷の錘をぶつけたがそんなことはどうでもいい。 彼女にとって最優先は「自分の命」であり、ここにいる者達など最初から眼中にはなく、死のうが生きようがどうでもいいのである。 …ただ、もし自分が囮にされて殺されようものなら、悪霊になって末代まで呪い苦しめてやるつもりではいるが。 彼女がそんなことを考えていたその時、彼女の乗っている馬車は「火の付いた太い鞭のようなもの」で真っ二つに破壊された。
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