第1章

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第一章 決闘  まだ校舎を囲む桜たちもつぼみだった。  卒業式を後日に控えた最後の昼休み。殆どの生徒は仲良し同士の最後の弁当を心名残り惜しそうに食べ終わった。教室内は普段より静かでどんな音も耳につく、例えば、上階の下級生の騒がしさ……いつもと同じように外や体育館に飛び出そうとする生徒足音……まだ箸を持ちながらドラマを話題に楽しそうな話声……進路のことを心細く打ち明ける話声……先生の愚痴……表面上はそれ程日常と変わらないが、未来への不安から、心ここに有らず、もう中学校生活は過去の物だと考えている生徒も少なくない。仕草はそれぞれあっても、心理的に分けると、自分の未来が手一杯で言葉数が減った生徒(男子に多い)、これからも友情が続くことを願って約束を求めたり連絡先を集めたりする生徒(女子に多い)、そして普段と変わらない生徒の三つに分けることができた。その最後の部類に坊主の少年もいた。と言っても、誰とも交わらず何を考えているかわからない、誰も彼に構いたくないから、彼が急に立ち上がって声を出すまでは、普段と同じように見えていただけである。 「わいに勝ったら一万やる!」  坊主の少年は指に挟んだ一万円を高くあげて大声を上げた。少年と言っても体は大人と変わらないか寧ろ大きいほどで、第二ボタンまで開けていた学ランは閉めるのが難しそうなほど首と胸板が厚かった。顔は堀が深く精悍だったが、くの字に曲がった鼻が共感を受けるには不利に働くこともあった。 「安心せえ、のしたりせえへん。わいの背中を地面につければいい、たったそれだけで一万や、楽勝やろ」  それまで笑い声や陰湿な会話で満ちていた教室は一瞬静まりかえった。が、すぐまたいつもの騒がしさに元に戻った。殆どの学生は坊主の少年の行為について敢えて話題にしなかった。 「おい、坂本、お前部長やろ、どうした何故やらんのや」  坊主の少年は今にもお札がが手から落ちそうなくらいギリギリ端っこを人差し指と中指で持って諭吉をヒラつかせた。坊主の少年の行動に無関心だった生徒たちも声をかけられた生徒の反応を見ようともう一度教室は静まりかえった。 「あ、落ちてしもうたわ。拾わんでええんか、誰も一万を拾う奴はこのクラスにはおらんのか、腰抜けども目が!」 「とっくに部長じゃないし、柔道もやめたんだ」と丸刈りが伸びてきたドラえもん頭の坂本は答えた。
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