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「相手にするな坂本」と坂本の席を囲っていた三人のうちの坊主が言った。彼は遠藤、遠藤も柔道部だった男である。
「右手だけや、右手一本だけで相手になったる、絶対に怪我させたりせえへん、こんなおいしい話ないやろ」
坊主の少年は諦めたように自分で落とした一万円をワザとらしく、どっこいしょ、と言いながら拾い上げた。
「ほんまにどうしようもない男しかおらんのう、正々堂々勝負できへんのか」
その時、誰かが坊主の少年の後ろからやってきて一万円を素早く抜き取った。坊主の少年はそれまでの強気の表情を失った。誰によって一万円が抜かれたのか想像も付かなかった、神経を360度張り巡らせていた、決して油断していた訳ではない。
「あたいがパクちゃんに勝って一万円もらうから、もうやめな」
教室内でそれまで見て見ぬふりをしていた生徒たちは、手を返したように好奇心の矛先に視線を集め、制裁を求める一体感が教室を満たした。関わりたくないと思っていた誰もが、次の瞬間には、まるで自分が被害を受けたかのように救世主の出現を喜んでいたのである。
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