歌と文字と女と俺

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俺は煙草が大嫌いだ。 ヴォーカリストにとって、喉は命。 その喉を痛める煙草は見ているだけでもイライラする。 己が吸わずとも、他人が吸っていれば、副流煙によって害を伴う。 それでも周りに吸うなとは言えない。 だが、付き合う彼女ともなれば話は別だ。 常に傍にいる存在…一緒の時間を共有する者が喫煙者なんて、考えただけでも吐き気がする。 愛せない…。 堅物人間の偏見と言われればそれまでだが、どうしても我慢できない。 ましてや千穂ちゃんのように同じヴォーカリストの立場として喉を守らないといけない人間が平気で自ら好んで煙草を吸う… これはもう、自覚がないとしか言いようがない。 俺は、随分と遅くなりいつもより景色が明るくなった帰り道を、そんな事をモヤモヤと考えながらチャリを漕いで帰った…─。
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