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ぼんやりしていると、いつの間にか萩が助手席のドアを開け立っていた。
「おいで」
差し出された手を、私はまだはっきりしない意識のまま取った。柔らかな土の上を、ハイヒールで歩く私を労わるように、萩は私の腰に手を添えてゆっくりと歩いた。
「あ、雨だ」
萩の声に顔を上げると、そびえ立った木々の隙間から、ぽつりと水滴が零れ落ちて来た。雨は、瞬く間に強くなり、緑の葉っぱの上でばらばらと音を奏でた。
「ほら、急いで」
「あ…」
土から盛り上がった木の根に足を取られ、転びかけたわたしを、萩は抱きとめると、そのままひょいと抱き上げた。
「やだ。降ろして!」
「やだ。降ろさない」
頼りなく見えた萩は、でも、意外にもしっかりとした足取りでわたしをかかえ、小走りにロッジへ向った。
「重いよ」
「何言ってるの。おちびさんのくせに」
そう言われて、また、私は泣き出しそうになってしまった。
かつて、あの人も同じことを言った。
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