episode1・①

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ぼんやりしていると、いつの間にか萩が助手席のドアを開け立っていた。 「おいで」 差し出された手を、私はまだはっきりしない意識のまま取った。柔らかな土の上を、ハイヒールで歩く私を労わるように、萩は私の腰に手を添えてゆっくりと歩いた。 「あ、雨だ」 萩の声に顔を上げると、そびえ立った木々の隙間から、ぽつりと水滴が零れ落ちて来た。雨は、瞬く間に強くなり、緑の葉っぱの上でばらばらと音を奏でた。 「ほら、急いで」 「あ…」 土から盛り上がった木の根に足を取られ、転びかけたわたしを、萩は抱きとめると、そのままひょいと抱き上げた。 「やだ。降ろして!」 「やだ。降ろさない」 頼りなく見えた萩は、でも、意外にもしっかりとした足取りでわたしをかかえ、小走りにロッジへ向った。 「重いよ」 「何言ってるの。おちびさんのくせに」 そう言われて、また、私は泣き出しそうになってしまった。 かつて、あの人も同じことを言った。
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