故郷

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船の上では さっきよりも心地よい風が 私たちを待っていた。 強風に吹かれ、なびく自分の前髪を抑えながら市原さんの横顔を盗み見る。 自分の故郷を慈(イツク)しみ そこに息づく伝統を尊(トウト)び それを熱く語る彼を 素敵だと思った。 尊敬した。 「長男しか参加できないって…練習を見学とかって…無理ですよね?」 私は遠慮がちに口を開き、上目遣いに彼を見た。 「練習?そんなのいくらだって見えるけど、最初はカタチになってないからつまんねえぞ」 「ううん。見てみたいです!私。三姉妹だし…男の人のそういう世界…すごく興味あります。…見てみたい」 「…変なヤツ。でも、俺も連れて来といて、夜になったら練習だから、お前がそれで暇つぶしになるなら言うことねえな」 「暇つぶしどころかこっちからお願いしたいくらいです!たのしみ。今日もあるんですか?」 「ああ。氏子での練習自体はもう始まってるから。俺は毎年途中参加」 「へえ…」 そう返事をしながら 全くの未知の世界に 私は想像すら出来なかった。
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