916人が本棚に入れています
本棚に追加
「市原さん…私に伝統芸能見せてくれるって…自分がやってるなんて…言わなかったじゃないですか」
「言ったらつまんねえじゃねえかよ」
「つまんなくないですよ。もっと早く言ってくださいよ。ああ、なんか、そんなことしてるなんて…市原さんのこと、尊敬します」
「…やってなくても尊敬しろよ」
「…うーん」
「ふざけんな」
「冗談。冗談」
稲森が笑う。
それだけで嬉しかった。
「そろそろ時間だ。もう着くぞ」
スマホの時計で時刻を見る。
「ええ、もう?」
驚く稲森に吹き出しそうになる。
カーフェリーにはもう、二時間以上乗っている。
「…楽しい時間て…あっという間に過ぎちゃうんですよね」
稲森の言葉に嬉しさと寂しさが同時に込み上げた。
俺は稲森の手を取った。
「…ゆっくり行こうぜ。ゆっくり…」
稲森との時間は
早くなんて流れて欲しくない。
「稲森、もう一回甲板出ようぜ」
「はい!」
最初のコメントを投稿しよう!