故郷

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「市原さん…私に伝統芸能見せてくれるって…自分がやってるなんて…言わなかったじゃないですか」 「言ったらつまんねえじゃねえかよ」 「つまんなくないですよ。もっと早く言ってくださいよ。ああ、なんか、そんなことしてるなんて…市原さんのこと、尊敬します」 「…やってなくても尊敬しろよ」 「…うーん」 「ふざけんな」 「冗談。冗談」 稲森が笑う。 それだけで嬉しかった。 「そろそろ時間だ。もう着くぞ」 スマホの時計で時刻を見る。 「ええ、もう?」 驚く稲森に吹き出しそうになる。 カーフェリーにはもう、二時間以上乗っている。 「…楽しい時間て…あっという間に過ぎちゃうんですよね」 稲森の言葉に嬉しさと寂しさが同時に込み上げた。 俺は稲森の手を取った。 「…ゆっくり行こうぜ。ゆっくり…」 稲森との時間は 早くなんて流れて欲しくない。 「稲森、もう一回甲板出ようぜ」 「はい!」
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