0人が本棚に入れています
本棚に追加
「また明日、ね。」
典子が家に入るのを見送った真理子が、少し低い声で呟いた。
典子の家をしばらく眺めて動かなかった。
典子と一緒の時には見せなかった、険しい顔をしてそこから立ち去る。
(明日がある。まだ、大丈夫。)
真理子の視線は真っ直ぐ前を見ているようで、今ではないどこか遠くを視ていた。
・・・
典子はいつものように、仕事から帰宅した両親と食卓を囲みながら、他愛ない会話をしていた。父は今日も口数少なく、母は勤務先での出来事を面白おかしく話した。
暫くして食事を終え、TVを視ている時に窓ガラスの割れる音がした。
「何?2階から聞こえた?」
「泥棒?!やだ怖い、お父さん見てきて!」
母が父を立たせて様子を見に行かせる。
階段を登る父の背中を、リビングの入り口から母と二人頭を並べて見送る。
階段の突き当たりは典子の部屋、そのドアを開けて中の様子を見回した父が、部屋の中へと前のめりに倒れた。
母と典子は身を固くする。
「お、お父さん?!」
母は怯えながらも、父の様子をみに階段に足をかけた。
そのとき人影がドアの向こうから現れた。
黒い影を強盗だと判断した母は典子の背中をリビングにある電話器の方に押し、こわばった声で「警察、110番!」と促した。
最初のコメントを投稿しよう!