ファーストコンタクト

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 女は懐から短剣を取りだし、苦しむ母の胸に突き立てた。  引き抜いた傷口から血液が吹き出し、典子の顔に飛沫がかかる。  一瞬の出来事で、典子は理解が追い付かず、自分の前に母が倒れてくるのを呆然と見ていた。  傷口から溢れる血液が廊下に広がり続けている。地貯まりの縁が靴下に生ぬるく染みて、典子は全身から力が抜けた。  目の前に広がる現実が受け止められなかった。  「お、おかあさん、おかあさん…」  か細い声で倒れた母の肩に触れ、揺すってみる。もちろん動くわけはない。短剣は正確に心臓を貫いているのだから。  
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