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「忘れるの……忘れるのよ」
電車に揺られながら必死にプライドを立て直そうと試みたけれど、気持ちが乱れてうまくいかない。
がっくりと項垂れ下を向くと、スカートからはみ出した太股の赤い跡に慌てて裾を引っ張った。
「最低……」
篠田陽一郎。
彼女がいながら
悪怯れもせず他の女を抱く男。
無感情は何より罪だ。
でも、私は分かっていた。
いくら彼に腹を立てたところで、
それは逆恨みというもの。
強引に誘ったのは私だから。
そして、軽くあしらわれたのも。
「月曜、どうするのよ……」
人目も構わず呻いて顔を覆う。
亀岡美紀、三十三年の人生で。
間違いなく史上最悪の朝だった。
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