十年の失恋

14/14
13519人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
「忘れるの……忘れるのよ」 電車に揺られながら必死にプライドを立て直そうと試みたけれど、気持ちが乱れてうまくいかない。 がっくりと項垂れ下を向くと、スカートからはみ出した太股の赤い跡に慌てて裾を引っ張った。 「最低……」 篠田陽一郎。 彼女がいながら 悪怯れもせず他の女を抱く男。 無感情は何より罪だ。 でも、私は分かっていた。 いくら彼に腹を立てたところで、 それは逆恨みというもの。 強引に誘ったのは私だから。 そして、軽くあしらわれたのも。 「月曜、どうするのよ……」 人目も構わず呻いて顔を覆う。 亀岡美紀、三十三年の人生で。 間違いなく史上最悪の朝だった。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!