2人が本棚に入れています
本棚に追加
あり得ない事態が起きていることに、頭の中がぐるぐると回り始める。
(なんで? どうして? 何きっかけ!?)
半分パニックになりながら頭を巡らせていると、駆け寄ってきた少年が心配そうに顔を覗き込んできた。
「君、大丈夫?」
聞き覚えのある声優さんと同じ声……。
その声は少年のイメージにぴったりで、全く違和感がない。
よく晴れた空の青と同じ色をした瞳に、少し幼さの残る顔立ち。優しくいたわるような声音に、私の気持ちも少しずつ落ち着いてきた。
「えと……、立てる?」
スッと手を差しのべられ、改めて自分が呆けていたことに気付いた。
「あ……、大丈夫! 立てます!」
気恥ずかしさもあった私は、手を借りることなく自力で立ち上がった。
そこへ、私が放置していた杖と本を持って金髪美人の女剣士がやってくる。
「あなた、魔術師?」
「あ……、一応、そうみたい」
「えっ?」
「あ、いえ! み、見習いです!」
女剣士の不信感たっぷりの視線に耐えきれず、私はそう答えるしかなかった。
「さっき、空から降ってきたように見えたけど……」
「ああ、あれは……」
私はこの場面を思い出し、自分が書いた通りの答えを言った。
「私のお祖父さんが転移魔法の研究をしてて、その実験に立ち会ってたら爆発に巻き込まれちゃって……」
「それで、ここまで飛ばされたってこと?」
「あ、はい」
そう。このシーンは、主人公の少年と、共に旅立つことになった女剣士が一人の少女と出会うところだ。
その少女の祖父は有名な魔術師で、転移魔法の更なる使い方を模索していた。
しかし、実験が失敗し、暴走した魔法の力によって少女はこの地に飛ばされてしまう……筈だった。
でも、ここに現れたのは私。
確かに魔法使いのような格好はしているが、見た目も声も私のものではない。まして、その少女のものでもない。
この事が何を意味し、後々どう関わってくるのか……。
この時の私には何一つ分からなかった。
最初のコメントを投稿しよう!