第1章 物語の世界・1

3/8
前へ
/19ページ
次へ
「そうだ。君、名前は?」 「え?」 「俺はエルシス。見ての通り旅の剣士さ。で、こっちはイザベラ。イシュタリカ王国の騎士団の人だよ」 「王立騎士団『白薔薇部隊』の副隊長を任されているわ」 「へえ~」  もちろん知ってはいたが、ここは知らないふりをするのが妥当だろうと判断した。 「あ、私の名前は雪……」 「ユキ?」 「……」  思わず本名を言おうとして踏みとどまる。  ここで本当の名前「雪村かおる」と名乗ったところで、日本人の名前が通用するとは思えなかった。 「あ、えと、ゆき……リア。ユキリアっていいます!」 「へえ、ユキリアか。良い名前だね」 「そ、そうかな?」 「『夢見る人』という意味ね」 「え……?」 (そ、そうなの?)  いくら自分が作り出した世界とはいっても、こんなご都合主義でいいのだろうか? 「それで? あなた一人で戻れるの?」 「え? あ……、たぶん無理」 「無理……って?」 「転移魔法って、もっと上級の魔法使いしか使えないから」  そう。これが物語の通りなら、自力では戻れないことになっているはずだ。 「君のいた所って……」 「サクラヤ村の近くの山小屋」 「サクラヤ村?」 「えと、ダルシア国の領内にある――」 「ダルシア国ですって!?」  イザベラが驚いたように言った。 「ここからだいぶ離れてるじゃない」 「あ、はは……」  もう笑うしかない。確かにイザベラが言う通り〝だいぶ〟離れているのだから……。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加