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「そうだ。君、名前は?」
「え?」
「俺はエルシス。見ての通り旅の剣士さ。で、こっちはイザベラ。イシュタリカ王国の騎士団の人だよ」
「王立騎士団『白薔薇部隊』の副隊長を任されているわ」
「へえ~」
もちろん知ってはいたが、ここは知らないふりをするのが妥当だろうと判断した。
「あ、私の名前は雪……」
「ユキ?」
「……」
思わず本名を言おうとして踏みとどまる。
ここで本当の名前「雪村かおる」と名乗ったところで、日本人の名前が通用するとは思えなかった。
「あ、えと、ゆき……リア。ユキリアっていいます!」
「へえ、ユキリアか。良い名前だね」
「そ、そうかな?」
「『夢見る人』という意味ね」
「え……?」
(そ、そうなの?)
いくら自分が作り出した世界とはいっても、こんなご都合主義でいいのだろうか?
「それで? あなた一人で戻れるの?」
「え? あ……、たぶん無理」
「無理……って?」
「転移魔法って、もっと上級の魔法使いしか使えないから」
そう。これが物語の通りなら、自力では戻れないことになっているはずだ。
「君のいた所って……」
「サクラヤ村の近くの山小屋」
「サクラヤ村?」
「えと、ダルシア国の領内にある――」
「ダルシア国ですって!?」
イザベラが驚いたように言った。
「ここからだいぶ離れてるじゃない」
「あ、はは……」
もう笑うしかない。確かにイザベラが言う通り〝だいぶ〟離れているのだから……。
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