365人が本棚に入れています
本棚に追加
二箱目の煙草が空になったのを確認すると、荒川はその箱を握り潰した。
あと一箱しかない煙草を苛々しながら、取り出す。
某煙草会社社長の第一秘書室に配属されて6年。
海外での交渉にも同席するために、子会社がある国の言語は粗方喋れるようにした。
頭脳明晰、沈着冷静。受付嬢たちからも絶大な人気を自負している。
艶のある黒髪は飾り気なく、整った鼻梁に冷たそうに見える瞳。
たまに見せる甘い笑顔は好きな人だけ。
が、
荒川は今スーツケースを隣の椅子に置き、煙草を吹かしながら、くそムカつく愛しい先輩を待っていた。
大学受験のプレッシャーを乗りきれた時、荒川は先輩に対しての感情が愛だと気づいた。
それからその先輩に片想いし、共に添い遂げる覚悟で、世襲制の先輩の会社の秘書に就職した。
先輩の右腕として側にいるために。
「絶対にもう離しませんから」
ジリジリと灰皿に煙草を擦り付けると、足を組み直した。
最初のコメントを投稿しよう!