くそムカつく愛しい人

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二箱目の煙草が空になったのを確認すると、荒川はその箱を握り潰した。 あと一箱しかない煙草を苛々しながら、取り出す。 某煙草会社社長の第一秘書室に配属されて6年。 海外での交渉にも同席するために、子会社がある国の言語は粗方喋れるようにした。 頭脳明晰、沈着冷静。受付嬢たちからも絶大な人気を自負している。 艶のある黒髪は飾り気なく、整った鼻梁に冷たそうに見える瞳。 たまに見せる甘い笑顔は好きな人だけ。 が、 荒川は今スーツケースを隣の椅子に置き、煙草を吹かしながら、くそムカつく愛しい先輩を待っていた。 大学受験のプレッシャーを乗りきれた時、荒川は先輩に対しての感情が愛だと気づいた。 それからその先輩に片想いし、共に添い遂げる覚悟で、世襲制の先輩の会社の秘書に就職した。 先輩の右腕として側にいるために。 「絶対にもう離しませんから」 ジリジリと灰皿に煙草を擦り付けると、足を組み直した。
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