くそムカつく愛しい人

3/21
前へ
/23ページ
次へ
次々とキャリーケースを引っ張りながら、出口から人が出てくる。 その中に、荒川のくそムカつく愛しい先輩、柴田優(しばたまさる)の姿はあった。 人目を引く、目立つ容姿をしている。 脱色しただけの痛んだ茶髪は、ハニーブラウンと唱われ、 日サロで焼いた肌は、三日で飽きたきりのサーフィンの為だと信じられ、 社長の奥さん似の女顔をGUCCIのサングラスで隠す柴田の姿。 「柴田先輩」 「うわっ」 名前を呼んだら、柴田は飛び上がるように驚き顔色を変える。 けれど、荒川はにっこりと甘く笑うと、着崩したスーツのネクタイを掴む。 「駄目ですよ。スーツはきちんと着なくては」 「けん、俺、その、ご――んっ」 柴田が『ごめん』という前に、その唇は塞がれた。 「んうっ」 荒川は柴田のネクタイを引っ張り、サングラスを奪い放り投げると、ゲートを通る人たちの視線など目もくれず、 ただただ柴田の唇を貪った。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

365人が本棚に入れています
本棚に追加