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柴田はベンツに乗り込むと、運転席との間の防音窓を降ろしカーテンも閉める。
そのままぶすっと窓に視線を送る。
「俺も乗りますよ……?」
「…………」
無言の柴田に戸惑いつつも荒川も乗り込む。
暫しの沈黙の後に、ぶっきらぼうに柴田は言う。
「手錠の鍵は?」
手錠を解けば少しは機嫌を良くしてくれたかもしれないが、荒川も窓の方へ目線をやる。
「……俺の家にあります」
「はぁ!?」
そう叫んだ後、柴田の顔がみるみるうちに真っ赤になる。
怒りと羞恥で。
「つまりお前は! 最初から俺を家に連れ込むつもりだったんだな!」
「――もちろん」
わなわな震える柴田の両腕を捕らえると、荒川は切なく懇願した。
「好きな人に突然半年も行方を眩まされた俺の気持ちが分かりますか」
「……けん」
「愛してるんだからこれぐらい虐めたら浮気も許すつもりでした」
その『これぐらい』が度を過ぎていたのだけれど。
「まだ怒ってます?」
そう尋ねると柴田は真っ赤な顔を逸らす。
「……怒ってないって言うタイミングを逃してた」
そう赤らめる柴田を、荒川はにたりと笑った。
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