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「受付ちゃんと出来たの?」
「おかげさまで。職業上常に猫被ってるようなもんだから、慣れたものって言うか」
「末恐ろしいな……あ、料理は?全部食えた?」
「食べた。詰め込んだ」
「さすがだな……」
それでも葵は晴翔の顔を見れなかった。
運転でずっと前を向いていてくれることが幸いだ。
確かにご利益がありそうと無理矢理にでも詰め込んだウェディングケーキ含め、出された料理を元からの貧乏性な性格で完食したせいか、少しお腹も苦しいけれど、でも、口数が少なくなってしまったのはそんな理由じゃないはずだ。
「眠かったら寝てていいぜ。どうせあと30分くらい着かねぇし」
「うぅん、大丈夫……」
「葵………?」
晴翔の呼びかけにも、返せない。
わからない。
自分の、今の気持ちが。
自分は今、そんなに行き急いでいるのだろうか。
「………どうした?」
赤信号で止まって、ギアに置かれた晴翔の左手に不意に自分の手を重ねる。
視線はまだ、窓の外。
「うぅん」
青信号になって、そのまま手は晴翔のシャツを掴む。
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