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「ずぶ濡れじゃねぇかお前……」
「うっ、ぇぇ!」
思いがけぬ意中の相手との対面に反射的に姿勢を正すものの、動揺のあまり意味の分からない声が出る。
「大方傘持ってき忘れて走ってくるまでにずぶ濡れになったんだろ」
「………」
反論の言葉すら見つからず俯いていると、晴翔は小さくため息をついた。
「……俺んち、来るか」
更に思いがけない言葉をかぶせられ、俯いていた葵はばっと顔を上げる。
「な、何で!だって私、車あるし、もう家帰るよ?」
「そんな身体冷やしてどうする気だよ。お前んちこっから車で15分はかかるだろ。俺んちなら車使えば3分かからねぇし、俺も楽だからついでに乗せてけよ」
「………」
「反論あるか?」
「ありません………」
「決まりだな」
極めて落ち着いた様子で晴翔がもう片方の手に握っていた傘を開いた。
実にシンプルなビニール傘だったが、決して安っぽくなく、サイズも大きくてワイシャツとスラックスと言う今では晴翔には馴染みの服装になったそれとセットで見ると、上品ささえ感じさせる。
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