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ポカンと傍観する葵を、晴翔が少しばかり不審がりながら振り返った。
「何してんだよ」
「え?」
「入れって」
「あ……」
一瞬躊躇った末、晴翔どころか自分にすら聞こえるか聞こえないかのような声で小さくお邪魔しますと口を動かしてその隣に潜り込む。
傘ありで土砂降りの中に飛び出したものの、その雨音は凄まじいの一言に尽きる。
おかげでいろいろ考えるだけの余裕は無かったものの、ふと晴翔に初めて恋をして、でも遠くから見ているだけだった中学時代をほんの少しだけ思い出して、何だかとても不思議な気分になった。
「とりあえずシャワー浴びて来い」
「ほえ!?」
玄関に入るなり間髪入れずにそう言い放たれ、葵は今日何度目かの素っ頓狂な奇声を上げる。
そのままの表情で晴翔を見れば、同じように今日何度目かの呆れた顔をしていた。
「そのずぶ濡れでどうする気だよ。大体風邪引くから近くの俺んちに来たんだろうが」
「う……はい……」
ずくずくになった足元を見てそれもそうだと肩を落とし、バランスを崩さないよう四苦八苦して靴下を脱ぐ。
葵がもたもたしている間に、晴翔はさっさと上がってバスルームへ姿を消した。
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