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結婚式まであと――七日。
部屋に射し込む陽にアスティスは微睡(まどろ)みから意識を覚醒させ、ゆっくりと瞼を開いた。
ふいに隣へと目を遣ると、ティルアの姿が消えていた。
気だるさから一転。
上体を起こしたアスティスは嫌な予感がした。
すぐにもシャツを羽織り、袖を通しながら廊下へと出る。
急ぎ足で廊下を駆けるアスティスは何人もの使用人とすれ違う。
信じられない物を見たような目でアスティスを見るも、構うことなどなかった。
彼女の部屋前に辿り着く。
ノックもなしに開け放った。
「…………ティルア……!」
息を切らせながらも辿り着いた部屋に彼女の姿はなかった。
ハンガーポールにはドレスが数着掛けられたままになっていることから、出ていったのではないと少しの安堵を浮かべたものの――
机上に本がなかった。
代わりに封が切られていない状態の封筒と綺麗に畳まれたハンカチが置かれていた。
走り書きされた自分の名を見て、アスティスはすぐにも封を破った。
「ティルア……馬鹿な、なぜこんな――」
アスティスはわなわなと肩を震わせた。
――――――――――――――――
アスティスへ
しばらく城を出ます。
探さないでください。
心配しなくても、時が来ればアスティスの元へ戻ります。
アスティスはミアンヌ様と結婚式を挙げてください。
民から慕われる立派な王様になってください。
最後に、身勝手なわがままを。
戻ってきたら、私をアスティスの何番目かのお嫁さんにしてください。
一番でなくてもいい。
私はアスティスの傍に居られるならそれでいいから。
アスティスを愛しています。
――ティルアより
―――――――――――――――
「探すなだと……何を……何を馬鹿なことを!
そんなこと……そんなこと許せるとでも思って……!」
アスティスはインディゴブルーの瞳を揺らめかせると、手紙を手にしたまま直ぐ様部屋を後にした。
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