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「ああ、ハムレットですか。
お陰様で貧民街のクーデターは落ち着いていますよ。
それより、随分と物々しいですね。
城下で何かあったのですか?」
アスティスの異母兄弟の弟。
ラサヴェルの義弟でもあるのだが、セルエリア王家の者はラサヴェルを忌み嫌う傾向があるらしく、仲はすこぶる悪い。
「白々しい芝居だな。
ここにいるんだろう?
あの細っこ……ティルア姫が」
「……はっ? 何のことです?」
思ってもみない問いに思わず素に戻りかけるも、寸でのところで押し留まった。
驚いたのは何もラサヴェルだけではなかったらしい。
ハムレットは明らかな落胆と焦燥を見せ、ラサヴェルを見下ろしてくる。
「まさか、まさか、本当に何も知らないのか……!?」
「緋薔薇に何かあったのですか?」
逆に問うと、ハムレットは一瞬逡巡(しゅんじゅん)した後、言った。
「……朝方から行方が分からなくなっている。
それだけだ、知らなけりゃ他に用はない。
邪魔したな」
言うだけ言って、すぐにも踵を返したハムレットはゾロゾロと部下を引き連れ、雑踏へと消えていった。
「緋薔薇が行方不明……ね」
アスティスとミアンヌの結婚の触れが出たことにショックを受けたのだろうか。
それとも、アスティスと喧嘩でもしたのだろうか。
ラサヴェルはそこで考えることを止めた。
ティルアがアスティスを大事に思うとすれば、それはそれで何をすることもない。
ただこうして待つだけで彼女は現れる。
王位という人質がこちらにある限りは。
本日の午後の予定は貧民街を巡回する。
セルエリアにてディアーナ教を崇拝する者は何も上流階級の者だけではない。
本来の在り方を敷き詰めれば、祈り、救いというものは貧民層にあるべきものだ。
セルエリアでは貧民街と一般街を区画分けしている。
貧民層の者達は大聖堂に祈りに行きたくとも行けない事情があった。
そこで定期的に教会の者が貧民街を訪れ、布教、教えを説くことになっている。
ラサヴェルは供を連れ、貧民街へと足を踏み入れた。
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