第五夜 愛することの意味

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 アスティスの腕が連れていった先は窓辺から月の光が射し込むベッドの上。  弾むことなくそろりと乗せられたティルアの隣にアスティスが座る。  白のシャツに身体の腺に沿わせたショースを身にしている様子から就寝前だったのだろう。 「ティルア……来てくれてありがとう。正直、来てくれるとは思わなかった」  彼はティルアの肩をそっと抱き寄せ、白い頬に赤みを乗せた。  並んだ肩越しに見上げる彼の眼差しにティルアは俯きかげんにはにかみ、もう一度顔を上げた。 「アスティス……教えて貰いたいことがあるんだ」  決意じみた瞳も彼は柔らかな笑みで迎える。 「俺に教えられるようなものなら」  彼はティルアが何を求めているか理解しているのか、口元にふっと笑いを浮かべた。 「むっ、どうして笑うの?  私、まだ何も言ってない」 「ティルアが考えていること、当てようか?」  至極楽しそうに笑みを浮かべ、彼はティルアの反応を窺ってくる。 「……むう……、いいよ、なら言ってみて。  は、外したら思いっきり笑うから」  自信ありげに不敵な笑みを浮かべる彼の表情を目の当たりにしたティルアはぷっくり頬を膨らませた。  彼は目を細め、唇の弧を高く描く。 「愛とは何か?  どうすれば伝えられるのか――だろう?」 「…………………」  自信たっぷりに出された言葉に、ティルアはじっとりとした目線を彼へと向ける。  負けた、正解。  素直にそう言うことが憚(はばか)られた。 「ぷっ、すごい顔。  ……君の部屋の机に本が何冊も置かれていたからね。  それを知ってさえいれば誰でも気付く」 「ずるい、知ってたんだ……どうやって言い出そうかなってちょっと悩んだのに!」 「ごめん、可愛いからついからかってみたくなったんだ」  そんな歯の浮くような言葉をぽんと出す彼に、溜め息を一つプレゼントする。  それから顔を上げて真っ直ぐに彼を見上げた。 「私はアスティスのこと愛せていないのかな?  みんなみんな、私がアスティスに愛されてるって言う。  でも、私がアスティスのことを愛してることは誰も気付いてくれないんだ。  それって、私の愛が……足りないせい……なの?  それとも、それは愛じゃないの?」  潤んだ瞳で彼を見上げると、彼は思いっきり顔を破顔させ、ティルアをぎゅうと抱き締めた。
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