第五夜 愛することの意味

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 スプリングが外されたベッド。  身体を預けるティルアの瞳に映る金色の髪。  温かいものがつうっと首筋を艶かしく這い、ある一点をきつく吸う。 「っ……あ…っ」  ティルアは身体をぴくんと震わせて、すぐそこにあるアスティスの金の髪を指で梳くように包み込む。  所有印を付けられる。  薔薇のように咲き誇る愛の証が。  彼のものだと思えることが嬉しくて、愛おしくて、でもいつか消えてしまうことが切なくて。 「……アスティス、もっと、もっと強く……簡単に消えないように……付けて」 「消えないし、消さないさ。  これからは――  ずっと一緒に居られる……そうだろう?」  アスティスが一瞬、言い淀んだ。  その胸にはきっと、多くの不安を抱えているとティルアは知っている。   「……………そうだね」  ティルアは涙を飲み込んで笑った。  アスティスを護りたいという気持ちをより一層強く感じた。  彼の熱い指がティルアの身体の様々なところに触れる。  首筋から下へ、鎖骨をつうっと撫で、黒レースのネグリジェの裾へと辿りつく。  そっと裾の内側へと手を奥に忍ばせ、たくしあげた動きが突然止まった。  とうとう来てしまった。  ティルアは一瞬だけ眼をぎゅっと瞑った。 「アスティス、これは」 「…………ティルア……。  ラサヴェルはどのように君に触れた?  何をされた?」 「!? アスティス、し、知って――」  ティルアの身体がびくっと強ばる。  抑え込んでいた涙がポロポロと流れてくる。  再度見られることが堪えきれなくて、隠そうと涙ながらに伸ばした手は彼に受け止められた。 「ティルア、……大丈夫だ。  俺はこんなことで君を嫌いになったりなどしない」 「――っ、アスティス……」  彼の唇が涙で濡れるティルアの頬で弾ける。  はらはらと流れる涙をすくう指先。  幼子を宥めるように頭を撫でる大きな手のひら。 「……このキスマークは上書きする」 「!!」     「ただし、それは俺限定……他の奴に上書きはさせない。  ティルアの頭てっぺんから、足の爪先まで……全て俺の物。  誰にも渡さない……いいね?」  顔を熱くさせ、ゆっくり縦に頷くティルアの表情を見て、安心したように彼は目を細めた。   
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