後悔

1/3
前へ
/39ページ
次へ

後悔

明石はチラッと一度小林を見ると、戸惑った表情を見せながら口を開いた。 「あの…前からちょっと原口部長のことで女子社員の中で噂があって…」 「噂?」 「はい…女の営業だと…口説いてくる…みたいな」 はぁ? 思わず目と口が開いた俺から、気まずそうに視線を外した明石。 原口が…口説いてくる? そんな噂、 聞いたことがない。 「今、小林の話だと、おととい朝倉が接待したみたいなんで…もしかしたら、 いざこざがあったのかもしれないです」 「いざこざって?」 「いえ…わからないですけど…朝倉も原口部長が変だって言ってたので…」 なんだよそれ…。 「朝倉は…何も言ってませんでしたか?」 そう付け足す明石に、俺はただ無言のまま首を横に振ることしかできなかった。 朝の話は間違いなく契約と原口のこと。 あの時、ちゃんと話を聞いてやれば・・・ 今更そう思うことしかできない自分が情けなすぎる。 それに原口にそんな噂があったなんて… 俺は、何度か原口を接待したことがあったし、契約してから何年もたってるっていうのに 噂が本当なら、 原口の悪性に全く気づきもしなかった。 原口が変だと話す 麻衣にさえも…気づいてやれなかった。 麻衣・・・。 “裕…助けて…” 朝見た麻衣の顔は、 俺にSOSを求めていたんだと思うと、 やりきれない後悔ばかりが襲ってきてギュッと強く目を閉じた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

990人が本棚に入れています
本棚に追加