第1章 『審判』

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彼女は審判の時を只ひたすらに待っていた。 自ら肉親、友を殺害し、血に染まったその手で顔を覆いつくしながら、ずっと泣き続けた。 神は決して赦してはくれないだろう、彼女はそう悟った。この街では、神が敷いた法により、永久の繁栄を約束されている。その秩序を乱すものは、例外なく処分される。当たり前のことだ。 閃光が瞬き、爆音とともに雷を街に落とす。海の水をひっくり返したかのような大雨が降ってきた。 すぐに地面は水に浸かり、彼女の身体は泥にまみれていく。このままでは風邪を引いてしまう。そう思った彼女はその場を後にし、雨が凌げる場所を探して歩き出した。 何故、私はこんな所にいるのだろう?そんな疑問が彼女の脳裏に浮かぶ。だが、その疑問は雨に溶かされるように、ゆっくりと形を崩し、彼女に答えを与えてくれた。 「そうだ、私は、みんなを殺すため此処に来たんだった」
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