第1章 『審判』

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手の震えが止まらない。雨に打たれ身体が冷えたせいだろうか、指先の感覚がない。 暫く歩いていると、古びた一軒の民家が目についた。電気が点いていて、薄暗い道を仄かに照らしている。 人気が無いところで殺害したつもりだった。もし、あの現場を見られていたらどうしよう。彼女はそんな恐怖に駆られるも、今はこの雨の中から直ぐにでも抜け出したかった。 戸を叩く、ややあって人が出てきた、杖を突いた白髪が目立つ老人である。 「アンタさん、こんな雨の中どうしたんだ?ずぶ濡れじゃないか」 「……道に迷ってしまって、何とかして公道に続く道を探そうとしていたら、急に雨が降ってきて」 「ああ、最近の天気は移ろいやすいからなぁ。寒かっただろ?中にお入り、風邪を引く」 老人にそう促され、彼女は家の中に足を踏み入れる。 お世辞にも綺麗とは言えない内装だ。猟銃が何丁を飾られており、自慢気に熊の剥製が玄関のすぐそばに置かれている。猟をして生活しているのだろう、ほんのすこしだけ血の匂いがした。自分が殺した人間に物ではない、彼女はそう思った。 暖炉には火が灯っている。彼女は暖炉の近くにより、座りこむ。メラメラと燃える炎は彼女を暖め、不思議と心を落ち着かせていった。 老人が毛布と珈琲を淹れて彼女に手渡した。珈琲が淹れてあるカップを持つ頃には手の震えも止まっていた。 「アンタさん、名前は?」 「エル」 「そうか、エルと言うのだな。私はグレイルという、グレイル・バーンズだ」
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