第1章 『審判』

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エルは夢を見ていた、幼い頃の夢だ。 両手を縛られ、天井に吊り下げられている。エルを見上げる父親の顔は、斜線で塗りつぶされている。 その後ろで腹を抱えている兄、無関心そうにテレビを見ている母親。 何もかも、忘れたい記憶だった。 父親の拳が鳩尾を何度も殴る。エルが嘔吐物を吐くと、今まで関心の無かった母親が、悪鬼の形相となり箒でエルの顔を叩く。笑う兄、携帯で写真を撮り誰かに送っている。 忘れたい記憶、だが、それはエルを縛り付けるように毎晩のように夢を見せた。 物音で目が覚めた。身体中に汗をかいている。 「気持ち悪い」 汗を拭う物は無いかと立ち上がった瞬間、部屋の戸が開きグレイルが入ってきた。 「おや、起きていたのかい」 グレイルは手に鍬を持っている。 「ん?ああ、これかい?これはねエル。君を解体するために使うんだ。寝ていたら苦しい思いをせずに済んだだろうに」 後ろに下がり、壁に背をつける。恐怖で身体が震えた。夢の光景が脳裏に浮かぶ。 「大丈夫さ。君のような若い女は色々と使い道がある。知り合いのコレクターに変わった奴がいてね、女の目玉や脚などをコレクションしている。そいつに売り付けるんだ」 「い、今まで何人の人間を……」 「さぁ?覚えてないや。なんせ審判が下らないからね、娯楽みたいなものだよ。そうそう、いい忘れていた。その知り合いのコレクターは『アフトリア』政府の幹部なんだよね」 じりじりとグレイルが近寄ってくる。逃げようにも逃げられない。エルは近くにあったボロボロのドライバーを手に取った。
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