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「なぁ、奏」
「却下」
「まだ何も言ってない…!」
「どうせ、見に行こうって言うつもりだったんだろ」
当たってますけども。そんな嫌そうに言わなくてもいいじゃないか。吉野くん絡みだから嫌がる気持ちも分かるけどね…!
奏にとっては、俺以外の全ての人間が敵に見えるんだろうし、きっと他はどうでもいいと思ってる。
「でもほら、知り合いがあんな形相で走って行ったら何事かと思うじゃん…?」
「思わない」
とことん突っぱねてくるな…。頑固な奴め…!
「行こうよ奏。あんな吉野くん初めてだし…それに、ほら」
そう、野次馬を見るよう促すと…吉野くんに似た声の子が…あんなに笑顔でいっぱいな明るい子だったはずなのに…物凄く言ってはいけない暴言を吐いてる声が聞こえる。
あと、それと。よく聞き慣れた…人を殴った時に出る、重い音も聞こえる。
「止めなきゃ…!」
「行くな。自分が関係ない喧嘩に首突っ込んでも拗(こじ)れるだけだ」
「それでも、見て見ぬふりはダメだろ!」
もしかしたら、吉野くんが人を殴ってるのかもしれないし、殴られているかもしれない。
どっちにしても…野次馬が出来てるって事は、見てるだけで誰も止めに入ってないってことだ。
俺が昼ごはんを食べる前から、あの人だかりは出来ていたんだから。
「待て伊織!」
俺を止める奏の声も聞かず、俺はその野次馬に向かって走り出した。俺が行ったところで何も出来ないかもしれないけど…喧嘩を止めることくらいは出来る。
「吉野くん…!う、わっ!?」
だから、俺は助けに行こうとしたんだけど。
名前を呼んだ瞬間、人が飛んできた。しかも女の子…に見える、ひよりちゃん。
咄嗟の事で、抱きかかえようとしたのに一緒に転んでしまった。うん、大丈夫。ひよりちゃんは死守したよ、ちゃんと。
お尻が痛い。
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